大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 いよいよ、春本番という頃――まだ、肌寒さが残る、北の方へと、私は向かっていた。

 もう――妊娠八か月。お腹はパンパンに近くなりつつあって、動くのも一苦労だ。

 何とか体重増加が最低限で済んでいるのは、栄養に気をつけた食事と、図らずも仕事で動き回っているおかげだろう。
 ストイックな生活になっているのは――江陽の元から去ったさみしさの反動か――。


 その日も、私は、珍しい調味料を探し求め、地元のスーパーなど数軒を巡る。

 妊婦というのは、意外と好都合のようで、長時間商品を眺めたりパッケージを確認したりしていても、何も咎められる事は無かった。
 きっと、お腹の子のために、悩んでいるのだろう。
 ――そんな空気さえ、感じ取られたのだ。

 そして、夕方。まだ、日が暮れるのも早く、辺りはもう薄暗い。
 そんな中、当面の住処で、いつものように夕飯の支度をしていると、不意にインターフォンが鳴り響く。
 静かな部屋が落ち着かず、情報収集も兼ねてつけているテレビをそのままに、私は、玄関のドアスコープをのぞき込み――そして、硬直した。

 目の前には、懐かしささえ感じる、ヒョロリとした立ち姿。



「――……かた、ぎり……さん……」



 全身の力が抜けそうになるのを耐え、私は、ゆっくりとドアを開けた。




「……どうぞ……」

「――ありがとう」

 間を持たせるため、お茶を入れ、テーブルに置く。
 テレビを消すタイミングを逃してしまい、まるで、BGMのようにアナウンサーの原稿を読む声だけが、部屋に流れていた。
 片桐さんは、チラリと部屋の中を見回し、目の前に座った私に――そして、私の大きくなったお腹に視線を向ける。

「……久し振りだね……。――……驚いたよ……」

「……私もです」


 ――どうして、彼が、ここにいるのか。


 社長が話したとは思えない。
 ――もちろん、聖だって言うはずがない。

 すると、片桐さんは、苦笑いしながら湯呑に口をつける。
 そして、少しの間の沈黙の後、それを置き、真っ直ぐに私を見つめた。
「――三ノ宮くんが、毎日のように、女子寮の前でキミを待ってるって、ウワサになってるよ」
「――……そう……ですか……」
「スマホも解約してるし、行き先は企業秘密。ご実家にも居場所は言ってないみたいだし――頼みの綱は、久保くんだけ。――でも、彼女、絶対に言わないってバッサリだよ」
「……そう……ですか」
 私は、聖に、心の中で感謝した。
 ――やはり、生涯の親友は、あの子だけだ。
「――それで、僕、彼に聞いたんだよ……別れたのかって。……まあ、殴られたけどね」
「え」
「そんな訳がない。――キミに、何かあったに違いない――そう、叫んでたよ」
「……申し訳ありません……」

 ――あのバカ江陽、片桐さん(ウチのエース)に、何て真似してくれるのよ!

 心の中で毒づいていると、彼は、視線を少しだけ逸らした。

「……確かに――彼の言う通りだったね……」

 その言葉には、目を伏せ、無言で返す。
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