大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 フラフラしながら、楠川さんに支えられた聖を、私が反対側から彼女のバッグを持ったまま支え、ゆっくりと帰路につく。
「聖……大丈夫なの?」
「えへへー?」
「……部屋まで連れて行くよ」
「――すみません……」
 上機嫌の聖を、怒り切れない。
 彼女は彼女なりに、いろいろと抱えているのだ。
「でも、聖ちゃんが、こんなにベロベロになるなんて、初めて見たかも」
「――そう、ですね。……いつもなら、もう少し意識はあるんですが……」
「だよね。オレと飲む時も、三杯くらいでストップしてたんだけどな……」
 私は、立ち止まり、聖を抱え直している楠川さんを見上げた。
「……あの……」
「ん?」
「……ほ、本当に……聖とは、何でもないんですか……?」

「そう思う?」

「え」

 彼は、いたずらが成功したような表情を見せた。
「――聖ちゃんには、内緒だよ?」
 軽くウィンクをしてみせる彼は、江陽とは違う方向で――イケメンの部類だ。
 さすがに、それ以上は追及できないので、私は、うなづくだけにした。
 その静けさの間に、聖の、よくわからない歌声だけが、響き渡る。
 やはり、完全なる酔っ払い。
「じゃあ、羽津紀さん、エレベーター、押してくれる?」
「ハイ」
 二人で、マンションにどうにか到着すると、聖を抱えながら歩く楠川さんに言われ、私は、先に中に入り、エレベーターの階数ボタンを押した。
 すぐに扉が開き、彼が中に入るのを待ち、ドアを閉める。
「ホラ、聖、もうウチに着くわよ?」
「んー?あ、羽津紀ー、一緒に寝よー?」
「ああ、もう……じゃあ、泊まるのね?」
「うん!」
 まるで、姉妹のような会話に、楠川さんは目を丸くする。
「……随分と、気を許してるんだね」
「――親友ですから」
 思わずマウントを取ってしまうような言い方をしてしまい、心の中で苦る。
 それに気づいているのか、彼は、ニコリ、と、微笑むだけ。
 三階のランプが灯ると、再び、二人で聖を支えて降りる。

「――聖⁉」

 すると、先日聞いた低音が耳に届き、私は、顔を上げた。

「……あ、っと……想真……さん」

 彼は、足早にこちらに来ると、楠川さんの手から、聖を引きはがすように奪った。
 その態度に、誤解されては困ると、私はすかさずお互いを紹介する。
「――えっと、楠川さん。こちら、聖の一番上のお兄さんなの」
「え」
「想真さん、こちらは、楠川親和さんです。江陽――私の婚約者の親友で、今日は、聖がこんな状態だったので、送ってもらったんです」
 私は、簡単に事情を説明し、想真さんを見上げた。
 彼は、まだ、完全に警戒を解いてはいないようだったが、ひとまず、事情は飲み込めたらしい。
「そうでしたか――失礼。聖が、ここまでの醜態を見せているのは、珍しかったもので」
「――いえ。では、オレは、これで失礼します。羽津紀さん、江陽に何かあったら、連絡してね」
「ハイ。ありがとうございました」
 頭を下げ、楠川さんを見送る。
 エレベーターの扉が閉まり、私は、気まずさで身を縮こませた。

 ――……どう、しよう……。

 ――……こんなになるまで止めなかったなんて……さすがに、怒ってる、わよね……。
< 50 / 143 >

この作品をシェア

pagetop