大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 出勤すると、神屋課長に、会議スペースへと手招きされた。
 私がパーティションから顔を出すと、しかめっ面を隠さずに言われる。

「――三ノ宮クン、退職するって、聞いてたの?」

 それには、首を振った。
「申し訳ありません。……私も、又聞きです」
「――ホントに?キミ、婚約者なんでしょ?」

 ――本当に、そうなんでしょうか。

 その言葉を飲み込むと、私は、頭を下げた。

「……何も、聞いておりませんので……」
 私の表情に、何かを悟ったのか、課長は大きく息を吐いた。
「……まあ、向こうさんの事情もあるだろうけど……突然すぎるよ」
 そう言って、課長は、私を見やる。
「とりあえず、彼の仕事は、一班全員で引き継ぐから。――幸か不幸か、今のところ、リニューアルの一件だけしか持ってなかったみたいだし」
「――……ハイ」
「キミは、キミの仕事してよね。――最近、滞っているみたいだけど」
「……申し訳ありません」
 私は、頭を下げ、席に戻る。
 企画課全員の視線を受け流すと、未決のボックスから、書類を取り出す。

 ――まずは、仕事だ。

 ――江陽の事は――その後。

 その優先順位が正しいのかは、もう、考えない。

 大きく息を吐くと、押している書類に、片っ端から付箋をつける。
 そして、今までの倍のスピードで、決定か差し戻しかを決めていった。

 恋愛だけで生きている訳ではないのだから、今、私がやらなければならない事をするだけだ。

 聖とのお昼もキャンセルし、一日費やし、未決のボックスを空にする。
 夕方、決定稿を三件、課長に手渡すと、頭を下げた。

「今日は、これで上がらせていただきます」

「あ、ああ。お疲れさん」

 その気迫に押されたのか、課長は、コクコクとうなづく。

「お先に失礼します」

 あっけに取られた企画課を後にし、定時で上がると、すぐにマンションにダッシュ。
 部屋に飛び込むと、スマホをバックから取り出した。

 ――着信あり。

 ――亜澄さん。

 その画面を見て、少しだけ落ち着く。
 昨夜、電話は繋がらなかったので、メッセージだけ送っておいた。
 でも、彼女と連絡が取れるという事は、まだ、望みはあるのだ。
 そう思い、私は、すぐに電話をかける。
 彼女もまた、すぐに出てくれた。

 江陽の結婚が決まったというのは、本当なのか――。

 それだけでも、確認したかった。

『羽津紀ちゃん、聞いたのね⁉』

「――ハイ。……昨日、叶津さんが、江陽の電話に出ました」

 事実を告げると、亜澄さんは、ため息をついた。

『……ごめんなさい、羽津紀ちゃん……。……こんな事になるなんて……』
「いえ、それよりも、事実が知りたいんです。……何で、江陽は、彼女と結婚すると言ったのか。……それは、本当なのか――」
 今までくすぶっていた疑問を、亜澄さんにぶつけると、彼女は、言葉に詰まった。

『……ごめんなさい……。……あの子……私達のせいで……』

「どういう事でしょうか」

 なるべく、詰問口調にならないように、柔らかく尋ねる。
 おそらく――亜澄さんも、動揺しているのだろうから。

 すると、彼女は、震える声で江陽に起こった事を話した。
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