大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 私は、スマホを持ち直し、江陽の番号にかける。

 けれど、もう、ブロックされているようで、繋がらない。

 スマホをテーブルに置き、私は、その場に崩れるように座り込む。
 そして、図ったように、涙があふれてきた。


 ――……これで、終わり?


 何も聞けず、顔も合わせる事もできず――終わるの?


 私は、顔を伏せ、涙をこらえるが、もう無理だった。



「――……ぅああああ―――っ……!!!!」



 叫ぶように泣き崩れると、かぶりを振る。

 ――何で?
 ――ずっと好きだったって言ったじゃない!

 ――家の事なんて、関係無いって――私と一緒にいたいって言ったじゃない!


 この先、明るい未来しか思い描いていなかった。
 どんなにケンカしようと、その度に折り合って、仲直りして――ずっとやっていけると思っていた。

 たとえ、結婚自体に躊躇していようと、私は、江陽と別れたいとは思わなかったのに――。



 アイツにとっては――私は、条件を積まれれば、別れられるような女だったのだ。





 ――……ちゃん……。

 ――うーちゃん。

 どこかで、名前を呼ばれた気がして、目を開ける。

 ――あ、おきた、うーちゃん。

 ……こうちゃん……。

 幼い頃の江陽が、はにかみながら、私をのぞき込んできた。
 ゆっくりと起き上がると、もう、お昼寝の時間は終わっていて、みんな、おやつの準備をしている。

 ――ああ、江陽くん、羽津紀ちゃん起きた?

 ――うん。ボクが、うーちゃんのおやつ、じゅんびする。

 そう言って立ち上がる江陽は、上機嫌だ。

 ――……わたしが、やるのに。

 けれど、張り切って先生のところに駆けて行くヤツを見て、そうは言えなかった。
 いつもなら、すぐに立ち上がって、引き下がらせるのに――。

 ――ああ、そうか。
 ――アイツのせいで、骨を折った頃か。

 夢なのか、昔の記憶なのかは曖昧だ。
 でも、保育園に行けるくらいなのだから、もう、ほとんど治った頃だろう。

 ――ハイ。うーちゃんのぶん。

 江陽は、おやつのプリンを、スプーンですくって、私の口元へ向ける。
 後ろでは、先生が、少しだけハラハラしながら見守っていた。

 ――……あ、りが、と……。

 戸惑いながらも口にし、そう、ポツリと返せば、満面の笑みをくれる。
 その表情に、気まずさが勝ち、私は、顔を背けて言った。

 ――もう、いい。じぶんでたべる。

 すると、ヤツの表情は一気に曇るのだ。

 ――なんで?うーちゃん、ケガしてるんだから、ボクがおせわするよ。

 ――そんなの、いらない。

 半泣きになりそうなヤツを放置し、私は、どうにか立ち上がると、先生を見やった。

 ――羽津紀ちゃん、どうしたの?
 ――もう、おやついらない。
 ――え、いいの?江陽くんが、食べさせてくれるのに?
 ――いらない。

 頑なに拒否する私に、先生は困りながらも、うなづいてくれたが、江陽は涙目だ。
 私は、それに気づかない振りをしながら、部屋を出る。

 ――うーちゃん、まって!

 ――やだ。

 ついて来ようとするヤツを振り切ると、園庭へ出て、ブランコに座る。
 そして、ゆらゆらと揺れながら、視線を下げた。

 何で、江陽は、こんなに構ってくるんだろう。

 もう、放っておいてほしいのに。

 そんな事を思いながら――どこかで、戸惑いながらも、うれしく思ってしまっている自分が許せなかった。


 ――アンタ、せっかく、こうちゃんが優しくしてくれてるんだから、素直に受けておけばいいのに。


 母親に諭すように言われ、更に腹は立ち。
 結局、男なんて大嫌いだと、意地を張り続けた人生だった。



 ――ようやく、素直にアイツの気持ちを受け入れられるようになったと思ったのに――……。


 ――もう、何もかも、遅かったんだろうか……。

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