大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
「――キミに、地方で埋まっている調味料を発掘してほしいと思うんだ」

「……え??」

 ポカン、と、自然に口が開いてしまった。

 ――それは――一体。

 すると、社長は、私に応接セットのソファにうながした。
 少々気が引けるが、直々ならば仕方がない。
 私は、会釈をして腰を下ろす。
 社長は、その向かいに。
 そして、前のめりになり――まるで、内緒話をするように、私に言った。

「片桐くんの件は、残念だけど――だからと言って、すべてが無くなる訳じゃない」

「え」

「――二の手、三の手くらい、持っていないと」

「――……え」

 社長は、体勢を戻すと、両ヒザに手を置いた。

「キミが、早退して、久保さんのお兄さんに抗議に行った日――片桐くんから、次の案が神屋くんに直接来たんだよ」

 私は、驚いて課長を振り返ると、口元を上げられた。

「各地――いわゆる、ご当地調味料だね。その全国展開と、それを使った商品の企画開発。これは、片桐くんが温めていたものなんだけどさ、この状況なら、このくらいしないとだろうし――成功すれば、今度は、世界規模を考えているんだ」

 楽しそうな社長の表情に、もう、決定なのだと理解する。
「もちろん、同じような商品はあるけれど、まだ、埋まっているものや、その地域でしか流行っていないものとか、あると思うんだよ。そういうものを、現地に行って、探してほしいんだよね」
「――……それを……私に、ですか……」
 でも、そういうものは、営業部が全国にいるのだから、そちらに任せればいいのではないか。
 頭をよぎった考えは、社長にはお見通しのようで、ニコリ、と、微笑まれる。

「うん。――キミが、適任だと思うんだ」

 揺るがない口調。
 ――ああ、いつもの社長だ。
 私は、心の中でため息をつく。

 ――けれど――まだ、手放しで受ける訳にもいかない。

 ――……私には――引っかかってしまう事が、いくつもあるのだから。 

 社長は、躊躇している私を見やると、ソファに背をもたれさせた。

「それにね――まあ、バレるだろうから言っちゃうけどさ、午前中にワールドスパイスの社長と話してて、何か、キミに興味持たれたみたいだから――引き抜き対策も兼ねてだね」

「ひ、引き抜きって……」

 私のような、肩書がついただけの平社員、引き抜いたところで、何のメリットも無いだろうに。
 あっけに取られながらも、社長を見やる。
 すると、ほんの少しだけ悲しそうに微笑まれた。

「――あと……今、ここにいると、いろいろと気が滅入るだろうしね。出張先は、こちらがめどを付けた全国各地。期間は、無期限だよ。納得できるものがあったら送ってもらうような形で、回ってもらおうと思っているんだ」

 ――……それは――。

 江陽が、叶津さんと結婚するという事を――おそらく、社長は知っているのだろう。

「こういう時だからこそ、仕事で力を発揮してほしいと思うよ。――どうかな?」

「……ありがとうございます……」

 私は、そう言って、社長に頭を下げる。

 そして、顔を上げ――眉を下げた。


「――……ですが……申し訳ありません……。――……考える時間をいただきたいと思います……」


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