虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
未だに信じられない気持ちを抱えながらも、リビアに自室を案内された。
私が生まれ育ったアレスの城の自室よりも、綺麗で広い部屋だった。
「クラリス様。こちらがお部屋になります。本日はお疲れだと思いますので、お食事はこちらに運ばせていただきますね」
「あ、ありがとう……ございます……」
リビアはほんわかとした雰囲気ながらも、てきぱきと私の身の回りの世話をしてくれた。
こんな風に誰かに世話をしてもらうなんて、いつぶりだろうか。
小さい頃は私付きの侍女もいたように思ったけれど、お義母様やお義姉様方がやってきてからは、一人でなんでもやらなくてはいけなかったし、なんなら私が侍女だったのだ。なんだか贅沢すぎる気がして、物凄く気が引ける。
そもそもこれは本当のことなのかも疑わしい。ドッキリの可能性だって大いにあるのだ。
私がすっかり信じ込んだところで、はい! 実は奴隷でしたぁ! なんて可能性はまだ十二分にある。
「湯を張りましたので、お先に入られますか?」
「え? ええ……」
リビアに案内され、自室に備え付けられているバスルームへと足を踏み入れる。
まさかここで水攻め……とかないよね?
「クラリス様、お背中お流ししますね」
「えっ! い、いえいえ! け、結構です! 自分でできますっ!」
私の身体を洗う気満々だった、もしくは殺す気満々? だったリビアは、「あら、遠慮なさるなんて、クラリス様って本当に謙虚なんですね」と笑っている。
この笑顔は一体、どういう……?
「いつでもお呼びくださいね」と微笑むリビアに、引き攣った笑顔を向けながらも、私はようやく一人の時間を手に入れた。
「はーっ……」
温かな湯船に浸かり、私は大きく伸びをした。
これは、本当のこと? それとも何かの罠?
未だにその疑念が尽きない。酷い扱いをされるものと覚悟してやってきたわけだが、それどころか、自国でもされたことのないくらいに手厚く扱われている気がする。
普通の国の王女って、こんな風に扱われるものなのかしら……?私には全くわからない。
王族でありながら、侍女のように扱われてきた私には、王女のいろはすらわからなかった。
思いっきり頬っぺたをつねってみる。
「いひゃい……」
当然のことながら、これは現実のようである。
実はもうすでに殺されていて、天国にでも来ているのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
人質の私を油断させ、実は私の知らないところでアレス国が今にも滅ぼされそうになっている、とか……そんなことはないだろうか。
しかし私を生かすことに、ルプス側に何のメリットがあるというのだろう。
「……本当に、……私を妻として迎え入れようとしている、とか……?」
ゼウラウス国王もミラ王妃も、嘘を付いているようには見えなかった。しかし私なんかに他人の嘘を見抜く力などない。……けれど……。
「……温かかったな……」
二人に抱きしめられたとき、すごく温かかった。物理的な温度だけではなくて、本当に歓迎してくれているかのような、優しい温かさ。
私は鼻まで浴槽に浸かり、ぶくぶくと温かな世界を味わう。
これが、本当のことなら、いいのに…………。
優しい人達に囲まれて、優しい世界で穏やかに生きられたら。
そんな幸せな願いを抱くことすら、私には罰当たりなことだ。