虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~

 リビアは私の言葉に驚いて目を丸くしている。

「クラリス様、よくお聞きくださいませ」

 ずいっと近付いてきたリビアは、声を潜めるように私に耳打ちする。

「レオナルド様は、クラリス様のことが大好きでございます」
「いや、でもそれは、」
「私は昨晩見てしまったのです」
「え?」

 見た? 何を?

「レオナルド様がクラリス様に、愛おしそうにキスをするのを……!」
「きっ……キス!?!?」

 ぼんっと音でもするのではないかと言うくらいに、身体中の体温が一気に高くなった気がする。

「き、き、キ……っ!?!?」

 お猿さんのようにキキっしか発音できなくなってしまった私に、リビアはにまにまと笑う。
 そうしてリビアは手近な机に置かれていたハンドベルを無造作に鳴らした。


 リリリリン!!!!!


 部屋中はおろか、城中に響き渡るかのような大きな音だった。
 私は慌てて耳を抑える。

「りっ、リビア!?これは一体……」

 一体何事? そう訊こうとしている間に、遠くから慌ただしい足音が近付いて来る。

「クラリス! 無事か!?」

 バンっと扉が大きな音を立てて開き、慌てたように息を切らしたレオナルド殿下が入ってきた。

「で、でで殿下っ!?!?」
「何事だ!?」
「いやそれはこっちのセリフなのですがっ!?」

 どうやらあの凶悪なほどに大音量のハンドベルは、レオナルド殿下を呼ぶためのものだったらしい。
 一侍女が一国を担う次期国王をハンドベル一つで呼ぶとは、なかなかに極刑ものであるように思うが当のレオナルド殿下は特になにも思っていないらしかった。

 ここに来てから薄々感じていることではあったけれど、王族や侍女や召使の身分差など関係なく、この城は一つの家族のような気さくさがある。
 侍女であるリビアも、ゼウラウス国王やレオナルド殿下に敬意は払いつつも、物怖じすることなく接しているし、それを国王や殿下も良しとしている。

 これがルプス帝国の在り方、なのかしら……。

 聞いていたルプスのイメージとはかなりかけ離れているようにも思う。
 アレスでは考えられないようなことばかりだ。

 レオナルド殿下と私が同じように首を傾げている様子を見て、リビアがこほんと説明を始める。

「殿下、お呼び立てして申し訳ございません。クラリス様があまりにネガティブで自分を卑下してばかりでおいででございましたので、ここはびしっと殿下から仰ってくださいませ」
「びしっと、とは?」
「もうっ! クラリス様のことが好きー! とか愛してるー! とかそういうことですっ! 全く殿下は本当に乙女心がわからないのですからっ! 私は退出いたしますので、あとはしっかり! ですよ!」

 やはり少しお母さんのような態度のリビアが部屋を出て行って、私とレオナルド殿下の二人が残された。
 レオナルド殿下は少し気まずそうに、ベッドに腰を降ろした。

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