仕返しのつもりだったのに、溺愛されているようでなんだか幸せです
嘘の結婚
それから数日後。
早速霧島社長は、忙しい仕事を何とか調節して沙羅の両親に挨拶をする予定を立てていた。
沙羅の実家はそう遠くない港町にある。
車であれば2時間かからない距離だ。
「…沙羅、今週の日曜日に、もしご都合が良ければだが…ご両親に挨拶に伺いたい。その挨拶が無事に済んだら、引っ越しの日程も決めないとならないな…いろいろ忙しいがよろしく頼むよ。」
「…はい。両親は日曜日なら大丈夫です。こちらこそよろしくお願いします。」
沙羅は霧島社長がこんなにも両親に挨拶をしっかり考えてくれていることが嬉しかった。
蓮とは何度も言うが大違いだ。
「ご両親に手土産を考えているんだが…何が良いかな、甘い物は好きかい?」
「はい、父も甘党で和菓子とか大好きですよ。」
偽りの結婚だとわかっていても、なんだか自分が大切にされているようで嬉しく感じていた。
愛されているような錯覚をしてしまいそうになる。
なんだか嬉しい気持ちが隠せずに口角が自然と上がってしまう。
そんな気持ちで社長室を出た時だった。
秘書課の女性がひとりこちらを向いているのを感じた。
彼女は初日にグレーのスーツを着ていた女性だ。
後から知ったのだが、彼女は、城ケ崎 京子(じょうがさき きょうこ)と言って、あのT大学を主席で卒業したとても優秀な女性だと知った。
彼女は社長秘書になるのが希望だったそうで、沙羅が社長秘書に選ばれたこにとても悔しがっていたという。
沙羅が秘書課を通り過ぎようとした時、城ケ崎が沙羅に声を掛けた。
「七海さん、なんだか嬉しそうね…そんなに浮かれていて秘書の仕事は疎かになっていないかしら。」
「…浮かれてなんて…いません。」
「そう…それでは来週の出張手配と先方への連絡は終わっているのかしら…さっき取引先の代表からアポの返事が来ていないと連絡だったそうよ…これでも疎かになっていないと言えるのかしら。」