仕返しのつもりだったのに、溺愛されているようでなんだか幸せです
三枝の言葉に、一瞬目の前が真っ暗になった。
この女性は、私が偽装の婚約者だと知っているのだろうか。
確かに本物の恋人が婚約者をするほうが良いに決まっている。
沙羅は自分の握った手にギュッと力を入れた。
「…かしこまりました。社長今まで大変お世話になりました。」
沙羅はなんとか言葉を言いきると、社長室から逃げるように走り出したのだった。
どこへ向かっているのか、自分でも分からないほどに走り出していた。
ちょうどロビーを抜けて外に出ようとした時、前から男性が沙羅に声をかけながら近寄り沙羅の行く手を阻んだのだ。
沙羅がその男性の顔を見ると、それは北斗の兄である太一だった。
「沙羅ちゃん、どうしたの急いでいるの?車で送ろうか?」
沙羅は太一の顔を見るなり逃げようとしたのだった。
太一は何かを感じたのか、沙羅の腕を掴んで強引に引き留めた。
「沙羅ちゃん、ちょっと話を聞かせてくれないか?なんで逃げようとしているの。」
沙羅は俯きながら太一に小さな声で話をした。
「北斗さんの本当の恋人がいらっしゃったんです。もう私は必要ないようなので…引き留めないでください。」
太一は話を聞くとなぜか頷き、そのまま自分の営業車へと沙羅を強引に連れていき乗せたのだった。
「なんとなく理由は分かったけど、俺ってお節介な人間なんだ。だから沙羅ちゃんをこのまま放ってはおけないよ。」
太一は営業車で自分の自宅へと向かったのだ。
突然の訪問に里香は驚いている。
「あらまあ、沙羅さんどうしたの?まずは家の中に入ってちょうだい。」