仕返しのつもりだったのに、溺愛されているようでなんだか幸せです

食卓の席に座ると、太一は沙羅に向かって笑顔を見せた。

「さぁ、沙羅ちゃん、遠慮なく沢山食べてね。里香がまだまだ鍋の具材はたっぷりあると言っているよ。」

「ありがとうございます。」

鍋は太一夫婦のように優しく温かい。
なんだか自然と涙が溢れだしてきた。

沙羅はそれを隠すように作り笑いをした。

「なんだか最近泣き虫になってしまったみたいです。せっかく楽しい鍋パーティーにごめんなさい。」


太一は沙羅を見ながらゆっくりと話し始めた。


「今日、ここに沙羅ちゃんが来ていることを北斗に伝えたら、すぐに迎えに来ると言ってたけど断ったんだ。今日はゆっくり沙羅ちゃんの話を里香と聞こうと思ってね。北斗は仕事や勉強はなんでもできるくせに、女心が分からないやつなんだよ困った奴だ。」


「私の話なんて…自業自得なんです。」


里香が優しく微笑んだ。


「辛いときは吐き出したほうが楽になるのよ。私達で良ければ話を聞くわ。」


沙羅は太一と里香に苦しい胸の内を話すことにした。


「私は北斗さんの偽装の婚約者なんです。もうお分かりだったと思うのですが、二つ星不動産のお嬢様との結婚を断る口実に過ぎないのです。それなのに…」


沙羅が言葉に詰まると、里香はうんうんと大きく頷いてくれた。


「それなのに…私は北斗さんを自分でも気が付かないうちに好きになってしまったようなんです。偽装の私が好きになるなんてあってはならない事なのに…そして北斗さんの本当に愛していた女性が今日現れたのです。私は居なくなった方が良いと思って、思わず逃げてしまったのです。情けないですよね。」


沙羅に向かって太一が話しを始めた。


「それは三枝凛子のことだろ?凛子はもともとインテリアデザイナーとしてうちの会社にいたんだ。北斗の一年先輩なんだよ。確かに彼女は仕事もできるし才能もあった。そんな凛子に北斗は憧れのような気持ちを持っていたようなんだ。やがて二人は付き合うことになったんだけど、いきなり凛子はイタリアで勉強したいからと言って北斗に別れを告げて行ってしまったんだ。」


やはり北斗と凛子は恋人同士だったのだ。
そして北斗は凛子を愛していたのだ。


「その当時、北斗はまだ社長では無かったが、期待の新人としてかなりのプレッシャーを会社からかけられていたようなんだ。そんな苦しい時にさっさと自分のことだけ考える凛子には、僕も驚いたよ。なんて自分勝手な女なんだってね。」

「そうだったのですね。」

「それ以来、北斗はいくら女性から言い寄られても頷くことは無かったし、女性と係わることを避けて来たんだ。だから沙羅ちゃんの話を聞いたときに、僕はすごく驚いたんだよ。」

「…私は恋人に裏切られて助けてもらっただけなのです。」


すると太一と里香が二人そろって大きく首を横に振った。


「北斗は沙羅ちゃんにすごく優しい表情をするだろ、僕たちは驚いたんだ。…沙羅ちゃん、北斗を信じてみてはどうかな。逃げていても何も解決しないと思うよ。」

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