魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 三日後。
 結局、未知の模様については何も手がかりがなかった。ピリエならともかく、ラウフェンに魔法回路についての書物があるはずもない。
 これ以上はラウフェンに戻らないとどうにもならない、レナールは依頼のロストは浄化魔法の効果だと結論をだした。ただし、未知の部分がある、と付け加える。
 ブラッツには一応、一次報告はしてある。必要ならラウフェンで調査を継続する、と。
 あとは、報告書をまとめてブラッツに渡すだけ。

 ということで、昨日からレナールは報告書の作成に勤しんでいる。アリーセはというと、もちろん遊んでいるわけにはいかないので、今回調べた結果を自分なりにまとめている。
 ロストの鑑定は初めての経験だったが、とても勉強になった。

「予定より早く帰れそうだな」

 ロストのある部屋で、机に向かい合ってお互いの仕事をしていると、ふとレナールが言った。その顔にはほんのり喜色がにじんでいる。

「嬉しそうですね。ピリエが懐かしいんですか?」
「ピリエが懐かしいというよりも、ピリエに帰って安心したい」

 レナールが真顔で言い切った。安心? アリーセが首をかしげる。

「君の件だ。正直、気が気でない」

 アリーセがジギワルドに連絡を取ったことはレナールももちろん知っている。忙しいのか返事はまだだ。予定より早く切り上げるのであれば、それより早く会う機会を作らないと。

「ジギワルド殿下は私を取り戻すつもりはないと思いますよ」

 ジギワルドがアリーセにラウフェンに残ってほしそうなそぶりを見せたことはない。取り戻すとしたら、別の監視者だろう。ただ、ジギワルド以外の監視者に接触されたことはない。

「……」

 レナールはジギワルドのことを警戒しているようだ。無言だけれど瞳が如実に語っている。何でだろう。馬が合わないのだろうか。

「心配しなくても大丈夫ですよ。そもそも私がここに残るつもりはありませんから。それは、レナール様もご存じでしょう? もう、私の家はピリエなんです」

 アリーセがそう言い切ると、レナールは何故か深々と息を吐き出した。

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