魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 フィンは無言で歩き始める。王太子の執務室あたりだろうか。アリーセはその後を大人しくついて行く。
 しかし、フィンは見慣れない場所を進んでいく。どんどん人気がなくなっていく。

「フィンさん。どこへ行くんですか?」
「ブラッツ様のいらっしゃる場所です」

 フィンは抑揚の少ない口調で言う。
 ――本格的におかしいと思ったのは、フィンが何の変哲もない壁を押したときだった。隠し通路が現れる。

(これは逃げた方がいいかもしれない)

 アリーセは王宮の一部分しか知らないけれど、でも、ここは何も知らない人間が足を踏み入れてはいい場所には思えない。
 確実に何かに巻き込まれているように思える。頭をよぎるのは監視者だ。
 監視者は王族、もしくは王族の血を引く者のこと。
 後ろを振り返ると、まるで監視をするように一人の騎士が立っていた。アリーセが逃げるのを阻止するためだろう。用意周到だ。

(大丈夫、私には魔法がある)

 ただ、ここで魔法を使うのは得策ではない。魔法を使ったことがばれたら大騒ぎになる。ラウフェンとの友好のためにきたのだから、無用な騒ぎは起こせない。
 アリーセは覚悟を決めて隠し通路に足を踏み入れた。騎士が扉を閉める。
 窓もない通路は薄暗い。石の壁が続く。フィンがあらかじめ用意していたらしいランプがなければ、足元もおぼつかなかっただろう。
 フィンが立ち止まる。どうやら目的地に着いたらしい。
 目の前にあるのは、ずいぶんと重そうな扉。
 フィンはゆっくりと扉を開けると、アリーセに入るように促す。そして、アリーセが中に入ったのを確認すると、頭を下げて出ていった。

「よく来たね。アリーセ嬢。待っていたよ」

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