魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールが用意してくれた深いブルーのデコルテの部分が大きく開いたドレス。大粒のサファイアの周りをダイヤが輝きを添えるそろいのイヤリングとネックレス。金色の髪の毛はきれいに編んで結い上げている。
 この日のためにお肌の手入れは欠かさなかったし、公爵家の侍女が全精力を込めてアリーセを変身させてくれたから大丈夫だとは思うのだけれど。

(ただ、隣に立つレナール様がキラキラ過ぎるのよね……)

 そんなことを思っていると、部屋の扉が開く。
 現れたのは、夜会用の盛装をしたレナールだった。黒地に金糸の細かな刺繍を施した上着。佇んでいるだけで絵になる、というのは彼のことを言う。
 レナールは一瞬目を見開いたあとで、ふんわりと微笑んだ。

「アリーセ。きれいだ」

 レナールは何のてらいもなくアリーセのことを褒めてくれる。

「ありがとうございます。レナール様も素敵です」

 アリーセが素直な思いを口にすると、嬉しそうな顔を見せる。

「そろそろ時間だ。行こうか?」

 レナールが差し出す腕を取る。この三ヶ月でずいぶんレナールのエスコートにも慣れた。ふと顔を見上げると、表情をやわらげて見返してくる。

「緊張しなくても大丈夫だ。君は今日のために頑張ってきただろう?」

 未来の公爵夫人として恥ずかしくないよう、アリーセはマナーやダンスの練習をみっちり行った。ダンスの練習についてはたまにレナールも付き合ってくれた。

「それに俺もいる。何かあったら頼ってほしい」

 レナールの声はとても甘い。どきどきする。
 たぶん彼にはこれからももっとドキドキさせられるのだろう。

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