魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 結局、あの隠し部屋での一件から一月後にブラッツは目を覚ましたらしい。だが、魔力を暴走させた後遺症は重く、思うように動けないことから、王太子の座を引くことにしたという。
 新たにジギワルドが王太子となった。
 ジギワルドは、豊穣のロストを使うつもりはないらしい。少しずつ魔法への偏見をなくそうと動いているという。実際、他国から魔法の専門家を呼ぶ方向で動いている。

『ふと思ったんだが、俺たちが鑑定したあのロスト。あれが魔法の不安定さをなくす鍵だったんじゃないか』

 研究室でレナールはそう言った。
 アリーセはレナールに続くべく、ロストの勉強も本格的に始めた。その前にまずは王宮魔法使いの試験に合格するのが先なのだけれど。

『大型のロストを使ったあとは、しばらく魔法を使わない方がいいと言われる。大きすぎる魔法の副作用として何が起こるかわからない……という話だったが、それは魔法を使うと何が起こるかわからない、ということだったんだな』

 ジギワルドによれば、五百年前の魔女が豊穣のロストを発見したのだという。そして運用できるようにまで整備を行ったが、そこで大きな弱点を見つけてしまう。魔法が不安定になることだ。そこで彼女は必死になって方法を探し、聖属性の魔力なら安定できることに気づいた。

『あのロストを作った古代人も、弱点には気づいていたはずなんだ。対策を考えた可能性もある。鑑定したロストの魔法回路には未知の模様があった。だから、それが』

 未知の部分があったゆえに、魔女は使い方に慎重になったのだろう。それを後回しにしているうちに魔法を暴走させてしまった……。
 もしかしたら魔女は豊穣のロストを使いたい勢力に謀殺されたのかもしれない。ただ、もう五百年前のことだ。真実はわからない。
 ちなみに、聖女だった彼女は、王妹でもあったらしい。

『聖属性の魔力で安定したということは、魔法が不安定になるのは瘴気と似たような成分のせいなのかもしれない。――まあ、仮説だが。どちらにしろ、あの国で魔法を使えるようになるには、いろいろと越えないといけないことが多すぎる』

 ジギワルドの道は険しいものになるだろう。それでも、いつかあの国で自由に魔法を使えるようになればいいと思うのだ。

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