魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
* * *
はっとアリーセは目を覚ました。見慣れた部屋の天井が飛び込む。既に外は明るい。
――昔の夢だ。あのときは、半分暴徒と化した村人に本当に殺されるかと思った。
十七になった今でもたまにこうして夢に見てはうなされてしまう。
あのあと、魔法を使って命からがら逃げ出して森の奥にある自宅に逃げ込んだ。――豹変した村の人たちが本当に恐ろしくて一週間ほど部屋の外にでることすらできなかった。
アリーセが魔女だとばれる前は、皆、見知らぬところがからきたアリーセにも優しかったのに。
魔女がどれほどこの国では恐れられているのかを、アリーセは身をもって感じた。あれ以降、アリーセは森から出たことはない。この森の一番近くの村の人々は、アリーセのことを魔女だと知っているから。
アリーセは物心ついたときから、この家で祖母くらいの年齢の女性――ベルタと一緒に暮らしていた。とはいえ、ベルタが祖母というわけではないらしい。おそらく、同じ魔法を使える人間――魔女であるベルタにアリーセが預けられたとかそういう流れなのだろう。ベルタはアリーセに文字の読み書きから一般常識、そして魔女に関わることまでいろいろなことを教えてくれた。
しかし、唯一の家族と呼べる存在だったベルタも二年前に病で亡くなってしまい、今、アリーセは、この森の奥の一軒家に一人で暮らしている。
アリーセは質素なベッドから出ると、木綿のワンピースに着替える。鏡に映るのは、金色のまっすぐな髪に薄紫色の瞳をした少女。
それから顔を洗って向かったのは、離れのような場所にある通称「祈りの部屋」だ。
黒っぽい石で出来たその部屋の空気はいつもひんやりとしている。おそらく、最初にこの石室があり、それに合わせてこの家が建てられたのだろう。この部屋だけ異質なのがその証拠だ。
部屋の中央にはちょうどアリーセの肩くらいまでの高さの石製の台があり、その台の上には水晶玉のようなものが鎮座している。
アリーセは台の前に跪くと、手を組んでベルタに教えられた祈りの言葉を口ずさみ始める。
物心ついてから一日たりとも欠かしたことがない習慣。ベルタが生きていたときはベルタと一緒に祈っていた。
祈りに反応するように、色を失った水晶玉が白く光り始める。
この水晶玉に祈りを捧げることが、魔女であるアリーセがこの世に存在するのを許される理由なのだという。この水晶玉が光を失わなくなったとき。それが魔女が許されるとき。ベルタからそう教わった。この行為は魔女の贖罪だ、と。
毎日祈りを捧げた直後、水晶玉は白く光る。しかし、翌朝にはその光は失われている。おそらく祈りが足りないのだろう。とはいえ、祈りには魔力を使う。一度限界まで祈り続けて倒れたことがあるが、その日も翌日には光は失われていた。あのときの絶望に似た感情をきっとアリーセは忘れることはないだろう。
――魔女が許されることはないのだ。
おそらく、アリーセはずっと祈り続けなければならないのだろう。
ベルタのようにこの家で死ぬまでずっと。
はっとアリーセは目を覚ました。見慣れた部屋の天井が飛び込む。既に外は明るい。
――昔の夢だ。あのときは、半分暴徒と化した村人に本当に殺されるかと思った。
十七になった今でもたまにこうして夢に見てはうなされてしまう。
あのあと、魔法を使って命からがら逃げ出して森の奥にある自宅に逃げ込んだ。――豹変した村の人たちが本当に恐ろしくて一週間ほど部屋の外にでることすらできなかった。
アリーセが魔女だとばれる前は、皆、見知らぬところがからきたアリーセにも優しかったのに。
魔女がどれほどこの国では恐れられているのかを、アリーセは身をもって感じた。あれ以降、アリーセは森から出たことはない。この森の一番近くの村の人々は、アリーセのことを魔女だと知っているから。
アリーセは物心ついたときから、この家で祖母くらいの年齢の女性――ベルタと一緒に暮らしていた。とはいえ、ベルタが祖母というわけではないらしい。おそらく、同じ魔法を使える人間――魔女であるベルタにアリーセが預けられたとかそういう流れなのだろう。ベルタはアリーセに文字の読み書きから一般常識、そして魔女に関わることまでいろいろなことを教えてくれた。
しかし、唯一の家族と呼べる存在だったベルタも二年前に病で亡くなってしまい、今、アリーセは、この森の奥の一軒家に一人で暮らしている。
アリーセは質素なベッドから出ると、木綿のワンピースに着替える。鏡に映るのは、金色のまっすぐな髪に薄紫色の瞳をした少女。
それから顔を洗って向かったのは、離れのような場所にある通称「祈りの部屋」だ。
黒っぽい石で出来たその部屋の空気はいつもひんやりとしている。おそらく、最初にこの石室があり、それに合わせてこの家が建てられたのだろう。この部屋だけ異質なのがその証拠だ。
部屋の中央にはちょうどアリーセの肩くらいまでの高さの石製の台があり、その台の上には水晶玉のようなものが鎮座している。
アリーセは台の前に跪くと、手を組んでベルタに教えられた祈りの言葉を口ずさみ始める。
物心ついてから一日たりとも欠かしたことがない習慣。ベルタが生きていたときはベルタと一緒に祈っていた。
祈りに反応するように、色を失った水晶玉が白く光り始める。
この水晶玉に祈りを捧げることが、魔女であるアリーセがこの世に存在するのを許される理由なのだという。この水晶玉が光を失わなくなったとき。それが魔女が許されるとき。ベルタからそう教わった。この行為は魔女の贖罪だ、と。
毎日祈りを捧げた直後、水晶玉は白く光る。しかし、翌朝にはその光は失われている。おそらく祈りが足りないのだろう。とはいえ、祈りには魔力を使う。一度限界まで祈り続けて倒れたことがあるが、その日も翌日には光は失われていた。あのときの絶望に似た感情をきっとアリーセは忘れることはないだろう。
――魔女が許されることはないのだ。
おそらく、アリーセはずっと祈り続けなければならないのだろう。
ベルタのようにこの家で死ぬまでずっと。