魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「聖女が俺の助手であることは公表されている。単に、珍しい聖属性の魔力に興味があるだけかもしれない。だが――気になることがある。以前、君が魔力を搾取されていたのではないかという話をしたことがあったな」
「はい」

 よく覚えている。それでアリーセはラウフェンに戻るのをやめたのだ。

「そのときは魔力の使い道についてまでは追及しなかったが、俺は、おそらくロストに使われていたのだと考えている。君が祈りを捧げていた水晶玉はロストの一部だったんじゃないか、と。そもそもそれくらいしか魔力の使い道なんてないからな」

 それは、なんとなくアリーセも感じていた。だが、もう自分には関係ないことだと考えないようにしていただけで。
 あの祈りの間は、ロストで使われている石材と質感がよく似ている。

「ラウフェンの小麦の収穫量が、今年落ちたらしい」
「小麦の収穫量?」

 レナールがいきなり切り出した話題の意味がわからず、アリーセは首をかしげる。
 商人に連れ去られた馬車の中。小麦畑は窓からよく見えた。

「でも、収穫量は天候などに左右されますよね」
「ああ。だが、あの国は違う。小麦に限らず、どんな作物も一定以上の量が取れる。大陸一の農業大国だ。不作の年にラウフェンの食糧支援に助けられた国も多い」

(そんなこと、初めて知った……)

「以前から少し気になってはいたんだ。何故、ラウフェンだけがいつも豊作なのか。大陸的に冷夏で不作だった年もラウフェンだけは通常通りだった。ロストによる豊穣魔法が関わっていたと考えれば、つじつまは合う」

 ラウフェンは、どんなときも国土が農業に向いている、という主張しかしない。
 周辺諸国も不思議に思っていたが、ラウフェンの機嫌を損ねた場合、万一の時の食力支援がしてもらえなくなったら困る、と何も言えなかったらしい。

「魔力供給がなくなって、ロストが使えなくなったから収穫量が落ちたんですね」

 アリーセがピリエに移民登録されたのは春。種まきの頃。それから約半年。そろそろ季節は秋になろうとしている。

「ああ。俺はそう睨んでいる」
「やっぱり私が聖女だから、魔力を搾取されていたんでしょうか?」
「そこについてはなんとも言えないな。ロストだけなら聖女じゃなくても使うことができるはずだ。ただ聖女の方が効果が上がるとか、そういうことはあるかもしれない。でも、本当にロストの運用だけが目的なら、関係ない可能性は高いと思う」

 デュラックのロストも、アリーセの魔力なしで豊穣の効果が生まれている。

「……」
「別にロストを使うことが悪だとは全く思わない。国中をカバーできるようなロストがあることに驚きだし、それを今まで運用できたこともすごいと思っている。だが」

 レナールが吐き捨てるように言った。

「――やり方が気に食わない」
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