魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 やり方というのは、贖罪とだましていたことだろう。
 ラウフェンで魔女が忌み嫌われているのは、五百年前に魔女が魔法を暴走させて当時の王都を滅ぼしかけたことがあるからだ。それ自体は仕方がないことだろう。
 アリーセも、その贖罪と称して魔力を搾取されていたことに怒りはある。いつか森の家を出ることを夢見ていたのに、そんなことあり得なかったのだから。でも。

「……アリーセ。何故嬉しそうなんだ?」

 レナールが形のよい眉をひそめた。

「すみません。その、レナール様が私のために怒って下さったことが嬉しかったんです。……確かにいろいろ思うところはありますが、森の生活は悪いことばかりではありませんでした。最低限以上の生活が保障されていたことも確かです。だからでしょうか。割とどうでもいいんです。今が幸せだから」

 それがアリーセの本心だった。過去のことを恨んでいたって仕方ない。
 人のために本気で怒れるレナールはとても優しいなと思う。

「君はお人好しだな」

 レナールは呆れような感心したような口調で言った。そのアリーセを見つめる青い瞳は限りなく温かい。照れくさくなったアリーセは、慌てて口を開いた。

「それで、ラウフェンが私を呼んでいるという話でしたね」

 レナールが居住まいを正した。

「俺個人的なことを言わせてもらうのならば、君は連れて行きたくない。君を取り戻そうとしている可能性が否定できないからだ。君をみすみす渡すわけにはいかない。だが、外交的にそうもいかないんだ」
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