魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 幾人かとの話が終わり、ようやく二人きりになる。アリーセは安堵の息をついた。隣でにこにこ話をきいているだけでも、なかなか精神力を使う。

「音楽が流れているけれど、どうする?」

 中央でワルツを踊る男女を見ながらレナールが尋ねてくる。アリーセは慌ててぶんぶんと首を振った。即答だ。

「無理です!」
「でも、練習しているんだろう?」
「それはそうですけど……。まだまだなので」

 社交に必要だと王宮に出仕しない日に、講師を呼んでダンスを教えてもらっている。これには使用人たちもかなり乗り気だったのだ。

「俺が君と踊りたいと言っても?」

 レナールがお願いするようにじっと見つめてくる。レナールには珍しいどこか甘えるような表情でアリーセはもう少しでうなずいてしまうところだった。危ない。

「そんな顔で見てもだめです。レナール様に恥を掻かせたくありません」
「君と踊ったところで恥を掻くことなんてないが……でも、無理強いはよくないな。今度練習に付き合おう」

 レナールが引き下がってくれたのでほっとする。

「その代わり、今日は誰とも踊らないように」
「誘う人なんていませんよ。それに、レナール様を差し置いて踊ったりはしません」
「その言葉、忘れるなよ」

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