魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「子爵。アリーセ嬢。大した規模ではないが、楽しんでほしい。陛下が体調があまりよくなく直接挨拶できないことを残念がっていた」

 アリーセはおまけであることを心得ている。基本はこちらに話が振られない限り、レナールに任せる予定だ。にこにこ笑顔だけは浮かべている。

「ここではラウフェン語で話してしまったが、ピリエ語の方がいいか?」
「いえ。ラウフェン語でかまいませんよ。ラウフェン語が話せることを示しておいた方が、いろいろ便利ですし。それを気遣ってくださったのでしょう?」

 レナールがなめらかなラウフェン語で返す。ブラッツがにやりと笑った。
 さすがにここでロストの話をするわけにはいかないので、話題はラウフェンの感想になる。王宮が豪華だとか食事がおいしいとか、そういう当たり障りのない話だ。

「――アリーセ嬢のドレスは、ひょっとして子爵が用意したものか?」

 不意に矛先がアリーセに向く。アリーセはすぐに答えられる内容でほっとしながら素直に言った。

「そうです」

 何故わかったのだろう。
 ブラッツは微笑ましそうにアリーセを見ると、視線をレナールに戻した。

「二人は婚約したばかりだったな。仲がよくていいことだ」
「はい。多忙でなかなか二人でこういった場に参加することができなかったので、機会をくださった殿下には感謝しております」

 レナールが照れずに堂々と返すと、ブラッツは声を上げて笑った。
 少し会話を交わしていたのち、ブラッツは他の人に呼ばれて去って行く。

 それからも何人かの貴族がレナール、というかピリエに興味を持って話しかけてくれた。アリーセの出番は最初の紹介だけ。婚約者です、と言われてにこりと微笑む。
 ピリエは魔法道具の開発に力をいれているけれど、それはもともと物作りという基礎があったからだ。特に金属加工の技術には定評があり、ラウフェンの人間は、主にそのあたりに興味を持っているようだ。
 ピリエが魔法大国だということは知られているから、魔法使いではないかと警戒されるのではと構えていたが、意外とそうでもない。続けて何人かの貴族に声をかけられる。それが、社交上のものなのか、本気で気にしていないのかは判断しかねるところだけれど。ただ、総じてピリエの技術に興味がありそうだった。魔法を前面に出さなければ排除するつもりはないのだろう。

< 78 / 147 >

この作品をシェア

pagetop