女王陛下は溺愛禁止!
「なにしに来た」
「やだなあ。様子を見に来てあげたのに」

「笑いに来た、の間違いではないのか」
「どっちでもいいけど」
 エアは肩をすくめて見せた。

「アンジェリアのこと好きなんだよね? このままでいいわけ?」
 ラドウィルトは答えようとして、結局口をつぐんだ。
「なんで黙るの?」
 エアはくるりと体の天地を入れ替え、さかさまになって空を歩き、ラドウィルトに近付く。

「……いいんだ」
 絞り出された声はかすれていて、エアは立ち止まる。地に向かって垂れた髪がランプの光にゆらめいた。

「陛下が幸せであるなら、なんだっていいんだ」
「ふうん?」
 エアはラドウィルトの顔に手を伸ばす。触れた彼の手は冷たかった。
 逆さまの顔が近付くが、ラドウィルトは無表情のままだ。

「人間て不便、好きなら好きって言えばいいのに」
 せせら笑うでもない口調は、本当にただ不思議がっているようだ。
 いつもなら剣を向けるラドウィルトが大人しいから、エアはひょいと元の姿勢に戻る。

「調子狂うなあ」
 嘆息をつく彼に、ラドウィルトは目を伏せる。

「愚かと笑うがいい。神ならばその権利もあろう」
「そうだね」
 言いながら、エアは笑うことがない。

 ふと、ラドウィルトは思い返す。
 彼がふざけて笑う以外の笑みを見せたことがあるだろうか。彼の心からの笑みを見た記憶がない。
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