女王陛下は溺愛禁止!
 国のために。
 それは王族が幼いころから教育されるものだ。
 素直に受け入れる者もいれば反発する者もいる。
 クライドも幼い頃は素直に、少年期には反発し、やがて責任の重さを受け入れるようになった。

「ですが、貴女と出会ってその気持ちは霧散しました。今は貴女だけを見つめていたい」
「愛など……いらぬのです」
 こらえきれないように言葉がこぼれた。アンジェリアはその目に怯えを浮かべて彼を見る。

「愛は人を惑わせる。道をたがわせる。ならば私には愛などいらない、そう決めたのです。このような私が殿下に愛される資格などない」
 叔父は愛ゆえに王位を欲し、叔母は息子の非道を愛で誤魔化そうとした。それらのことが心に根深く影を落としている。

「悲しいことをおっしゃいますな。貴女のご両親は評判の仲睦まじいご夫婦だったと聞いております。その間には愛がおありでしたでしょう? 貴女がまっすぐな心根になられたのもご両親が愛を清らかに注がれたゆえでございましょう」
 クライドは席を立つとアンジェリアの前に行き、跪く。

「陛下。お慕いしております。貴女の心が今は那辺(なへん)にあろうとも必ず幸せにしてごらんにいれます。御手に触れます御許可を」
「許す」
 アンジェリアが左手を差し伸べると、クライドはその震える薬指にキスを落とした。

 唇のやわらかな感触に、アンジェリアは落ち着かない気持ちになる。
 だが、動揺を見せないようにみじろぎひとつせず、クライドを見下ろす。
 顔を上げたクライドが笑みを浮かべ、アンジェリアもまたぎこちない笑みを返した。
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