女王陛下は溺愛禁止!
 今日の議会を終えたアンジェリアは午後、執務室にこもる。
 ラドウィルトはおらず、彼女ひとりだった。

「結婚か」
 アンジェリアがため息交じりにこぼす。
 まったく実感がわいていない様子だ。

 恋をする暇もなく毎日を走って来たアンジェリア。
 女王になって国政に慣れないうちに叛乱が起きた。覚悟を決めたつもりの抗戦では、覚悟の甘さを思い知らされる日々が続いた。叛乱の制圧を進めると同時に周辺各国の状況も確認しておかなくてはならず、神経をすり減らされる日々だった。

 収めたのちには通常の国政と並行して叛乱によって荒れた国を復興しなくてはならなかった。
 あれから十年。まだ戦災の跡は残るが、街は復興を続け、笑顔は増え続けている。結婚の知らせが届けば国は祝いに賑わうだろう。

「大丈夫、きっと今まで通り」
 彼女は自分に言い聞かせるように呟く。それが楽観であることは自身でもわかっているだろうに。
 ドアがノックされ、ラドウィルトが書類の載った盆を手に入ってきた。
 アンジェリアは彼が暗い顔をしていることに気が付いたようだった。

「体調でも悪いのか。顔色が悪いぞ」
「大丈夫でございます」
 答える声は暗く、アンジェリアはペンを持った手で頬杖をつく。
 ラドウィルトは目をそらすようにして無言だ。

 おや、とエアは思う。
 以前の彼なら頬杖にはすぐさま注意していただろうに、なにも言わない。
 そのまま退室し、アンジェリアは不安げに首をかしげて政務に戻った。

 かわいいアンジェリア。
 エアは心のうちに呼びかける。
 俺がいるから心配しないで。君のことだけはなにがあっても守るから。
 くすくすと笑みをこぼし、エアは眠り続けた。
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