女王陛下は溺愛禁止!
「私が彼の者を信じておるは事実。なればこそ粛々と厳正に進めよ。真実は自ず(おの)と明らかとなる」
 睥睨(へいげい)とともに告げる風格はまさに王者。
「言われずともそのつもりでおります。陛下こそ、我らを信じておられぬからのご訪問では」
 捜査は全力で行うものを、信用されていないのは腹立たしい。

「よう言うたものだ。ラドウィルトが犯人と決めつけておっただろう。早う解決して手柄を上げたい気持ちもあろう。隣国の王子が襲われたゆえに解決を急ぐ内部の発破もあったろう」
 それはその通りだ。上司である将からは解決を急ぐように言われているし、外務省からも早く犯人を挙げろと言われている。ラドウィルトが犯人であるほうが都合がいい勢力もあるだろう。女王廃止論を唱える者たちはこの件を利用しようとするかもしれない。

「こたびに限らぬ。冤罪は決してあってはならぬ」
 静かな怒気に、グレイソンはまたも気圧される自分を自覚せざるを得なかった。

 女王の鬼相(きそう)たるや凄絶だ。どんな美女でも怒らせれば醜怪になるというが、アンジェリアだけはそうではない。烈然(れつぜん)として凛然(りんぜん)。女としての侮りを寄せ付けない。青い炎を大輪の薔薇として束ねたような苛烈な美しさがある。
 かつて尊敬していた老将が彼女を支持したのが、ようやくわかった気がした。

「承知いたしてございます」
 彼はただ首を垂れるほかなかった。
「ならばよい。話はそれだけだ」
 言い置いて、女王は紅茶を飲み、顔をしかめた。

「お茶の腕はいまひとつだな。鍛錬も良いが、茶の腕も上げるよう。良き休憩は良き仕事を生む」
「御助言、ありがたく賜ります」
 総隊長の言葉に、女王は先程とは打って変わって悠然とした微笑を浮かべる。
 お茶を飲み干すと席を立ち、ふと尋ねる。
「兵士たちは茶よりも酒を好むものか?」
「さようで」

「そうか。ならば無用の心配であったやもしれぬな。解決後には良き酒をたしなむことができるよう、健闘を祈る」
「お言葉ありがたく、任務に励みます」

 再度の礼に笑みを返し、アンジェリアは退室する。
 閉められた扉に、グレイソンは深く礼をした。
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