女王陛下は溺愛禁止!
「陛下のご不興を晴らすには私では不足でございましょうか?」
 セピアの瞳に窺う色はなく、自信に満ち溢れていた。
「不足とは思うておらぬようだが」
 アンジェリアが言うと、彼は甘く優雅な笑みを見せた。

「申し遅れました、クライド・フィルア・バートライドと申します。陛下とダンスを踊る名誉をわたくしめに」
 アンジェリアはかすかに眉を上げた。
 クライド・フィルア・バートライド。それは隣の大国リアンシェードの二十三歳になる末の王子の名であったはずだ。

「陛下」
「わかっておる」
 隣国の王子の立場を悪くするわけにはいかない。
 アンジェリアはクライドに手を差しだす。

「ありがたく存じます」
 クライドは恭しく彼女の手をとり、フロアの中心に(いざな)った。
 オーケストラが楽を奏で、ふたりがダンスを始めると周囲は安堵の空気に包まれた。

 アンジェリアはつい彼を見つめた。
 やはりあの人に似ている。
 視線に気付いたセピアの瞳が彼女に向けられ、思わず目を逸らした。これでは初心(うぶ)に思われてしまう、と焦って話し掛ける。

「王子殿下がお越しになる報告は受けていないのだがな」
「陛下にお会いしたく、忍んで参りました」

「なのに偽名ではなく本名を?」
「あの場では妥当かと。でなければ一顧だにされなかったことでしょう」

「そうかもしれぬな」
 アンジェリアは面白そうに彼を見た。
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