女王陛下は溺愛禁止!
 アンジェリアは隣を歩くクライドを見上げた。
 彼の背は高い。凛々しく整った顔立ちは老若を問わず女性を魅了するだろうし、その声の響きは耳をとろけさせる。威風堂々とし佇まいは年下である侮りをいっさい受け付けない。

 まるで理想そのもののような王子だ。リアンシェードの第三王子で継承権は第三位、アンジェリアの立場で言えば、国政の重責を理解している者のほうが伴侶としてありがたい。

 私がただの小娘だったなら。
 アンジェリアは少し切ない気持ちになった。
 ただの貴族の娘であったなら、彼は遠慮なく焦がれる相手となっただろう。だが、女王として君臨している現在、ただ好ましいというだけで心を寄せるわけにはいかない。

 それでいうならば、とちらりとラドウィルトを振り返る。
 彼とて、乙女心を震わせるに充分な容姿を携えている。クライド同様に背が高く、頼もしい。
 定かには覚えていないが、彼の父に連れられて登城してきた際に会ったのが初めてで、黒髪に緑の瞳が美しくて、思わず見とれた記憶がある。

 幼い自分はラドウィルトを見るたびにどきどきしていたものだ。思い出してアンジェリアはふっと笑う。恋にも届かなかったときめきのかけらが胸に残っているのが意外だった。

「いかがされました」
 クライドのセピアの瞳にアンジェリアは笑みを返す。
「昔を思い出しておりました」

「楽し気なご様子。私ともぜひそのような思い出を作っていただきたいものです」
「心をとろかす言葉を次々と。初心な乙女であればたちまち虜となりましょうぞ」

「どのような女神の心を掴もうと、陛下の御心を得られねば砂粒ほどの価値もございますまい」
 女王の仮面をかぶっている現在、アンジェリアはただ悠然と笑みを返す。
「貴殿の言葉を心待ちにしている令嬢もたくさんいらっしゃることであろう。そのような者たちに囁いて差し上げよ」
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