女王陛下は溺愛禁止!
「やはり王位が欲しいのか? さすがにそれは無理だぞ」
「王位よりも貴女を欲しております」
 クライドは瞳に甘さを宿してアンジェリアを見つめる。

「私は王族と言えど現在の継承順位は三位。帝王学を学ばされはするもののそれは王を補佐するため、権力の極点に立つことはかないません。ときを経た今は兄たちに続いて王子妃、やがてはそのお子たちが私の上に立ち、私の国内での次序(じじょ)は低くなるばかり。胸に虚ろが宿ることもございました。陛下の婿となればソルディノアノスの国内では序列二位、リアンシェードに比肩する大国であり歴史ある国の女王の王配であれば祖国リアンシェードの兄たちよりも上。これは私の矜持を保つには魅力的に映りました」

「正直だな」
「隠しても仕方ございません。それに、これは過去のことでございます」
 嫌な流れになりそうな気配を感じたが、止める間もなくクライドは続ける。

「今は陛下の魅力に完敗しております。私はもはや恋の女神の威光にひれふす憐れな子犬にほかなりません。どうぞ陛下のお慈悲でお導きくださいませ」
「断る」
 即答に、クライドはまた苦笑する。

「相変わらずつれないお答えであらせられる。せめてこのひとときくらいは希望を持たせていただきたいものです」
「結論は決まっている、もったいつける必要もなかろう。子を成すつもりもない。貴殿も女は子を成してこそと思っておられるだろう? 別の善きご婦人を探されよ」
「飾らぬ率直な御気性であらせられる」
 クライドが楽し気に目を細める。

 アンジェリアには貴族ならではの恋のかけひきを楽しむ様子がない。それはクライドに好ましく映った。リアンシェードでもソルディノアノスでも貴族は一定程度、恋をゲームのように楽しむ風情がある。率直に愛という単語を口にするのは情緒がないと厭う傾向にあり、もってまわった言い方で口説く、断るときでも風流な言い回しをするのが貴族というものであった。
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