女王陛下は溺愛禁止!
「事情もあるだろうが、それを汲んだところで殺そうとしたことに変わりはない」
 戦災孤児として育ち、つらいこともあっただろう。

 だが、それは彼女だけではない。ほかにもたくさんの人が憂苦を抱えながらも前を向いて生きている。
 恨みつらみを募らせて他害を企てる賊心(ぞくしん)を許すのはそういった国民への裏切りであり、国の根幹が揺らぐ。

「私は冷酷な人間だ。犯罪者が死刑になったところでなんとも思わぬ」
 はりぼての威勢に、ラドウィルトは痛ましさを感じながらも笑みを浮かべて見せた。

「それでこそ陛下でございます」
 自身の虚勢もまた見抜かれているかもしれない。あの場を離れなければ止められたかもしれないという後ろめたさが彼にはあった。
 それでも互いに虚を張り巡らせ、支え合う。内側がぼろぼろであっても、互いがそれをわかっていても。

「なんか騒がしいねえ。落ち着かないや」
 お菓子を抱えてエアが執務室に入って来る。のんきな口調にアンジェリアは一瞬苛立つ。

「そなたは……いや、それでこそ道化」
 アンジェリアは苦々しく笑みを浮かべる。
「この程度で動じてなどおられぬ。一命はとりとめたのだ、あの図々しい王子のこと、このまま回復して見せるだろうよ。晩餐ののちは今一度、見舞に行く手筈を」
「かしこまりました」

「人間はすぐ死んじゃうから怖いなあ。アンジェリアは死なないでよ」
 エアの言葉に、ラドウィルトは妙にどきりとした。
 さすがに今回の件にエアは絡んでいないだろう。不思議な力が関与する隙などないはずだ。

「人間って変だよねえ。どうせすぐ死ぬんだから、他人なんて放っておいて自分の幸せを選べばいいのに」
「神ならば違う、と?」
「んー、神もいろいろだから、なんとも言えない」
 言って、エアはクッキーを口に放り込む。
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