Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 キッチンのシンクで手を洗いながらついつい独りごちた。慧弥から名前で呼ばれるのには未だに慣れず、ドキッと肩が震えてしまう。

 車での距離感も恥ずかしいし。あの目と整った顔立ちをジッと見るのも緊張する。きっと毎日接していたら次第に慣れてくるんだと思うけれど。こうして数日あくと、ドキドキして受け答えが上手くできない。

「姉ちゃんおかえり?」

 風呂上がりの郷がリビングに入り、きょとんと目を瞬いた。「顔赤くね?」と指摘されるけれど「ただいま」としか言えない。

「ねぇ郷。今日レトルトでもいいかな?」
「うんいいよ。何のやつ?」
「牛丼かハヤシライス」
「じゃあ牛丼で」
「わかった」

 朝セットした炊飯器からご飯をよそい、郷とふたり分の夕食を簡単に用意する。

 入浴を済ませて自室にこもった。充電器に差しっぱなしのスマホを持ち上げると、ラインの通知が二件来ていた。どちらも慧弥だ。

【想乃は身長何センチ?】

「っえ」

【足のサイズは?】

「えぇっ! な、なんで……!?」

 思わず声が出ていた。確かに彼からは「色々教えてね」と言われてはいるけれど。自分のこんな情報まで必要なのだろうか。少しの迷いはあるものの、想乃は顔をあかくしながらも素直に教えることにした。
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