Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「このまま着けて帰りたいんだけど、いいかな?」
「勿論です。新しいものとお取り替えいたしますので、少々お待ちください」

 一度試着した指輪を返して暫し店内で待つことにした。ショーケースの中に仕舞われたそれぞれの価格をつい見てしまい、想乃はギョッと目を()いた。自分がひと月に稼ぐ給料の約半年分だ。

 店員が出してくれた指輪を慧弥が受け取った。

「さぁ想乃。左手を出して?」

 彼に促されおずおずと広げた手を出した。想乃のすらりとした白い指に彼の手が触れて、先ほどのリングが填まった。うっとりとため息をつくほど綺麗だ。

 だけど、高価すぎるよ。やっぱり私には分不相応なんじゃ……?

 不安になって慧弥を見上げると、彼は嬉しそうに微笑んでいた。「いいのが買えたね」と言って想乃の手に自身の指を絡ませた。

 それだけで不安要素が一気に溶けてしまう。慧弥の体温にドキドキしながら「ありがとうございます」と口にする。「どういたしまして」と返された。

 店員の挨拶を背に受けて、想乃はジュエリーショップを後にした。

 慧弥と手を繋ぎながら通りを歩き、次はお洒落なブティックに入った。取手を押して開けるガラス扉にはAvenir(アヴニール)という店名が記されている。“未来”を表すフランス語だ。

 そこでも彼は顔パスで、店員から丁重なもてなしを受けていた。
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