Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 清掃業の仕事を既に退職し、コンビニ業務も火曜と木曜のみのシフトに減らしていたため、以前に比べるとぐっと自由な時間が持てるようになっていた。

 慧弥に頼まれていたピアノの練習も、新しい楽譜を買ってもらったことで並行して取り組めている。

「先生、今日もありがとうございました」

 母の病室でピアノを弾き、療法士の先生に頭を下げる。「お母さん、また来るからね」。想乃は母に退室を伝えて、一階の正面玄関に向かった。

「もうこんな時間」

 左手の腕時計を一瞥し、若干早足になる。このあと慧弥と食事をする約束が入っているのだ。

 想乃は文字盤の綺麗な高級腕時計に大粒のダイヤが光る婚約指輪を身につけ、クリーム色のワンピースを着ていた。

 美しく着飾る想乃が通り過ぎると誰もが振り返った。全て慧弥からプレゼントされた品物だ。今となっては慧弥の一存で数々の服やアクセサリーが想乃の自宅に送り届けられるようになっていた。

 どれもこれもが高価すぎるため、もう贈り物は結構ですとやんわり断ったのだが、彼は首を傾げて曖昧に笑うだけで聞き入れてくれなかった。「想乃は俺の婚約者なんだから、よろしく頼むね」と言い、普段から身につけるようにお願いもした。

「また想乃に似合いそうな物を見つけたら自宅に届けるから」
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