Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
『なにと訊かれても。お金じゃ買えないものだから』
さらりと答える彼を見て膨らんだ意欲が途端に萎んでいく。
お金じゃ買えないもの……? それはいったい。考えてから思いついた単語を口にする。
『たとえば時間、とか?』
『まぁ、そうだね』
そっか。なんにせよ、彼が本当に望むものを私にはあげられそうにない。
『せめて。私になにかできることがあれば言ってくださいね』
『……うん?』
『ピアノを弾くぐらいしか能がないんですけど。慧弥さんの聴きたい曲、また演奏しますから』
前にリクエストされていたコンクールで弾いた曲目も、楽譜を手に入れてすでに聴いてもらっていた。彼は懐かしそうに目を細めて喜んでくれた。
『じゃあひとつだけ。調子に乗ってリクエストしてもいい?』
慧弥のお願いにパッと目を上げて『勿論です』と頷いた。
『ハグしてくれる?』
『……ハ』
グ……。浮かべた笑みが瞬時に固まった。彼は椅子を引いて立ち上がり、『ん』と手を広げてスタンバイしている。想乃の視線が上に移動して彼の顔の位置で止まった。
もしかして、慧弥さん……酔ってる?
表情にこれといった変化は見られないけれど、自分なんかにそんなことを頼むなんて。
さらりと答える彼を見て膨らんだ意欲が途端に萎んでいく。
お金じゃ買えないもの……? それはいったい。考えてから思いついた単語を口にする。
『たとえば時間、とか?』
『まぁ、そうだね』
そっか。なんにせよ、彼が本当に望むものを私にはあげられそうにない。
『せめて。私になにかできることがあれば言ってくださいね』
『……うん?』
『ピアノを弾くぐらいしか能がないんですけど。慧弥さんの聴きたい曲、また演奏しますから』
前にリクエストされていたコンクールで弾いた曲目も、楽譜を手に入れてすでに聴いてもらっていた。彼は懐かしそうに目を細めて喜んでくれた。
『じゃあひとつだけ。調子に乗ってリクエストしてもいい?』
慧弥のお願いにパッと目を上げて『勿論です』と頷いた。
『ハグしてくれる?』
『……ハ』
グ……。浮かべた笑みが瞬時に固まった。彼は椅子を引いて立ち上がり、『ん』と手を広げてスタンバイしている。想乃の視線が上に移動して彼の顔の位置で止まった。
もしかして、慧弥さん……酔ってる?
表情にこれといった変化は見られないけれど、自分なんかにそんなことを頼むなんて。