Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
『契約書に一文を追加した文書を、またメールで送っておくね』と言って電話を切られそうになる。想乃は慌てて「あの!」と引きとめた。

「お給料、ありがとうございました」
『ああ、確認した? 日割りだから少ないけど。来月はちゃんと満額で支給するね?』
「はい。助かります」

 それじゃあ、と小さく会釈して回線は途絶えた。リビングに敷かれたラグに正座したまま、しばらくの間動けなかった。

「遅いです」と人知れず呟いた。「もう手遅れですから」と言い、手の甲に丸い水滴がひとつふたつとこぼれ落ちた。

「もうちゃんと、好きですから。慧弥さんのこと……っ」

 自身の心がコントロールできず、闇雲に涙が溢れてくる。想乃は大粒の涙を流し、一人きりの家でしゃくり上げて泣いていた。肩をすぼめて俯き、込み上げる寂寥感にひたすら泣き続けた。

 ふと手元に目を落とし、スマホに浮かんだデジタル時計を読み取る。いけない、そろそろ郷が学校から帰ってくる時間だ。

 慌てて腰を上げて、二階の自室へ引っ込んだ。

 事実上の失恋は思った以上に痛く、厄介だった。心の内に秘めた恋心をすっかりと洗い流すまで、涙は止まらないのではないかと思えた。ひっく、ひっく、と込み上げる嗚咽が収まるまで、ベッドの中で布団をかぶり、じっとしていた。
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