Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 幼い慧弥を包んでいた腕は、いつの間にか別の人物のものに変わっていた。七歳の小さな体も、知らぬ間に高校生のものへと成長していた。

「慧弥くんはお母さんが大好きだったんでしょう? だったら私がかわりに癒してあげる」

 いつの間に忍び寄っていたのか。深夜、眠っている慧弥の布団の中から、白い女の顔がぬっと現れた。ぞわりと全身が総毛立ち、「おまえじゃない」と吐き捨てた。

 その名を口にすることすらおぞましい。

 姉の黎奈がインターンシップを兼ねてパリへ一年間留学していた時期、それは起こった。父・(あきら)も仕事で不在だった。

 家族が留守になるタイミングを見計らったかのように、女は慧弥の部屋に無断で侵入した。「消えろ」と口にする言葉が震えていた。

「早く……俺のまえから消えろ!!」

 自身のしかかる細い体を、力任せに引き剥がした。次の瞬間、視界がかすみ、息が詰まる。過呼吸を起こしていた。慧弥のあげた叫び声に萎縮し、女は暗い部屋から立ち去った。

 この悪夢のような体験を機に、慧弥は執着を見せる女性や、異様な熱視線を向けるそれに激しい嫌悪を抱くようになった。

 女嫌い(ミソジニスト)とまではいかないが、相手をよく知らない限り、対話することすら警戒してしまうのだ。
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