Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「不思議なものね」と言って黎奈が目を細めた。「母も同じ。白いピアノを弾いていたわ」。

「え?」と思わず顔を上げると微笑む彼女と目が合った。

楽譜(それ)、もう二十年前のものだから、ところどころ印刷がかすれているけど……使えるかしら?」

 彼女の言う通り、楽譜は紫外線や湿気の影響で端が黄ばみ、箇所によっては音符が消えかけていた。コピー機で印刷したような紙束だ。

 てっきりクラシック曲だとばかり思っていたが、洋楽だった。世界的にも有名な女性シンガーの曲が三曲分、重ね合わせて綴じてある。

「わからない箇所はネットで調べられますし、大丈夫ですよ。試しに弾いてみますね?」

 紙束を譜面台に置いて、想乃は椅子に座った。ポロン、と鍵盤を撫でて軽くウォーミングアップしたのち、楽譜の先頭にあるト音記号に目を走らせた。

 前奏を流すように弾いてから、歌い出しの主旋律を丁寧に指で奏でた。最初のほうこそ、楽譜の先読みをしながら指を滑らせていたのだが、曲のサビ部分に入るところからは自身の指と鍵盤だけを必死に目で追いかけた。

 あれ……? どうしてかはわからないけれど。知ってる……次にどの音が来るのか、わかる。
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