Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「想乃さんと言ったね。すまない。亡くなった家内を思い出してしまって、つい。しんみりしてしまった」
「……いえ」
「二十歳……ということは、来年は早々に成人式があるんだね。着物はどんな柄を選んだんだい?」

 他愛もない雑談のはずだったが、想乃は「あ」と呟き、言葉を詰まらせた。

「うん?」と慧が瞬きをして、首を傾げる。ふと慧弥に目をやり、眉を寄せた。何かまずいことでも聞いたか? そんなふうに息子を見つめている。

「すみません、父さん。おそらくは家庭の事情を考えて着物を選んでいないのだと思います」
「……そうなのかい?」

 想乃は苦しげに眉を寄せ、こくりと頷いた。しまったな、と思った。まさかそんな話題を振られるとも思っていなかったので、うっかり素の自分が出てしまった。

 もともと成人式には欠席するつもりだったのだ。自らが振袖を着るために生活費を削るなんて、もったいなくてできない、そう考えていた。

 自分についてすでに調査されているものと思い込んでいたけれど。父である慧に関してはそうではないらしい。

 家庭の貧困を理由に、婚約を反対されたらどうしよう。慧弥に迷惑をかけてしまう。想乃は不安を隠せず、俯いた。

「となると、まだ前撮りもしていないのか」
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