Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
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大勢の拍手に包まれながら、想乃はピアノから離れた。
恥じらいの気持ちから身を縮め、早足で慧弥のもとに帰っていく。
慧弥は優しく微笑んでいた。表情から喜んでいるのが伝わり、想乃はほっと胸を撫で下ろす。
「素晴らしい演奏だったね。思わず感動して泣いてしまったよ」
慧弥が眉を寄せ、おどけたふうに首を傾げる。言われてみれば、確かに目が赤い。胸の奥がきゅんと疼き、じわりと達成感が広がった。
「喜んでもらえてよかったです」
そう言って控えめに笑いかけた瞬間、グイッと手を引かれた。鼻先が慧弥の胸元へ触れ、顔全体が熱くなる。
「父のための選曲なのはわかってるけど。俺も嬉しかった」
「ありがとう、想乃」と続け、彼にふわりと抱きしめられた。
「まったくもう」と誰かが呟いた。「全く」、「見せつけてくれるよなぁ」という声も聞こえた。笑い声であったり、拍手の延長であったり。様々な音が飛び交っていた。
大観衆の前で抱擁をしたのだから、当然だ。
「いやはや、大変微笑ましいですね」
司会の晴彦が微笑みながらマイクを通して声を響かせた。
プログラムは次のものへ移り変わり、感謝状や花束、プレゼントの贈呈が行われた。黎奈が還暦にちなんで、鮮やかな赤色の胡蝶蘭を贈った。