Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 なにそれ、変じゃない? そう言いたげな顔つきを見て、想乃は言葉を詰まらせた。最近になって“本気で好きにならないこと”を追加されたのに、過度なスキンシップをされるのは非常に困るのだ。

「だって……あんなに大勢の目の前で」
「だからいいんじゃない」

 存分にアピールができたことを、慧弥は喜ばしく思っているのだろう。なんだかそれすらも腑に落ちない。

 行きの車の中で「急に抱きしめたりはしない」と聞いていたから尚更だ。

「そんなことより、想乃って本番に強いよね」
「……かもしれません」

 “そんなこと”で片付けないでほしい。

 ホテルの駐車場へ向かう途中、「慧弥!」と呼ぶ男性の声が届き、ふたりは足を止めた。振り返るとパーティーで挨拶をしたいとこの彼、並樹潤の姿があった。

「どうした?」と慧弥が尋ねる。潤の目が真っ直ぐに想乃を捉えた。

「彼女、撮らせてくれないかな?」
「……うん?」
「さっき、パーティーでも言っただろ、いい被写体が見つからなくて困ってるって。彼女の、ピアノを弾いている姿を見てビビッときたんだ。撮らせてもらえないかな、次の個展の目玉にしたい」

 慧弥が「どうする?」と問うように想乃へ目配せする。想乃は困惑から眉を下げ、慧弥を見上げた。正直なところ、写真を撮られるのは苦手だ。
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