Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 難色を示す想乃を見て、「悪いけど」と慧弥が口を挟んだ。潤が食い下がる。

「もちろん、謝礼は用意するつもりだよ。どうかな、浅倉さん?」

 言いながら潤が自身の名刺を想乃に差し出した。想乃は困ってまた慧弥を見つめる。慧弥が嘆息し、代わりに名刺を受け取った。

「依頼を受けるかどうかは、想乃が決めることだけど。少し考えさせてもらう。返事は俺からするから」
「わかった」

 潤は不安そうに眉を下げ、俯きがちに頭に手をやった。「あのさ」とめげずに想乃に話しかける。

「慧弥は知ってることだけど、実は俺も少しだけ楽器やるんだ、バイオリンとかギターとか」
「……え」
「全然身にはならなかったけど。時々趣味で弾いてる」
「そうなんですか?」

 同じ奏者と知り、想乃の表情がいくらか和らいだ。ホテルの通路で立ち話をしているせいか、ホールにいた招待客が何組か通り過ぎる。

「潤は親族の中で唯一、芸術の道を選んだやつなんだ。それでナミキホールディングスにも入らなかった。確か絵も描いていたよな?」
「ああ。下手の横好きレベルだけどな」
「ははっ、あれで? おまえの作品は見たことあるけど、充分に才能あるだろ」

 謙遜がすぎると言いたげに、慧弥が潤の肩を小突いた。潤が口元に笑みを滲ませる。
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