Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「今日浅倉さんの演奏を聴いてさ。内から熱量が湧き出てきたって言うか……これだっていうワンシーンが頭に浮かんだんだ。できたら前向きに考えてほしい」
「……わかりました」

「じゃあ」と小さく会釈すると、潤はホールへ戻って行った。遠ざかる背中を見つめ、慧弥が息をつく。

「同じ芸術家として、想乃に触発されたんだろうね」
「受けた方がいいんでしょうか?」
「まぁ、想乃の気持ち次第だけど、潤は悪いやつじゃないよ」

 そう言われてふと思い出す。

「もしかして、あの学生音楽コンクールに慧弥さんを誘ったのって……?」
「潤だよ。プロとは違った感性のものが聴けるから、たまにはいいだろって」
「そうだったんですね」

 てっきり、妹の美海から誘われたのだとばかり思っていた。

 想乃はため息をついた。必死に頼み込む潤の表情を思い出すと、胸に小さなトゲが刺さったような気持ちになる。

「もしお受けするとしたら、報酬は遠慮します」
「なんで?」
「だって、慧弥さんの親戚の方だし……」
「お金はあって困るものじゃないし、もらっておくといいよ」
「……え?」
「金銭の授受はビジネスの基本だから。他意のない証拠にもなる。ね?」

 他意のない証拠。
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