Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 黎奈の店で働かないかと誘われたけれど、偽装婚約の契約は一年間だし、ゆくゆくはピアノに携わる仕事をしたいと思っているので時間的な余裕もない。

 それに、仮にアパレルの仕事を始めても、契約期間が終われば気まずくなり、続けるのは難しいかもしれない——そう考え、端的に伝えた。

「想乃はどうしたい?」
「……え」

 まずはそこからでしょ、と言いたげに慧弥が見てくる。

 ラーメン屋の駐車場から車を出し、すぐ近くのコンビニに立ち寄った。買い物ではなく、車内でじっくり話すためだった。

「アパレルの仕事は未経験だけど、やってみたい気持ちもあります。でも“二兎を追う者は一兎をも得ず”って言いますし。結局、どっちつかずで契約期間が終わってしまうんじゃないかと思って……」

「なるほど」と頷き、慧弥が尋ねる。

「ピアノに関わる仕事はまだ見つけていないの?」
「はい。正直、恥ずかしいんですけど……パーティーでの演奏で頭がいっぱいで、それどころじゃなかったというか」

 慧弥への恋心が頭の大半を占めていて、自分の将来については手をつけられていない。

「パーティーが終わってからも、なんだか気が抜けちゃって」

「そっか」と相槌を打ち、慧弥がふっと息を吐き出す。
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