Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「ちょっと貸して?」

 慧弥がマグカップを置き、手を差し出す。想乃はファイルを開いたまま、そっと渡した。

 さっきまで自分が目を通していたように、慧弥がファイルを開いた。想乃はテーブルに手を伸ばしてマグカップを持ち上げた。

 彼が淹れてくれたコーヒーをひと口飲み込む。ちょうどよい甘さで、幸福感に満たされる。

「ブライダルピアニストに特別な資格はないけれど……役立つスキルや資格はある。主に求められるのは演奏技術と幅広いレパートリー。それを証明するために、音大や音専の修了証だったり、ヤマノ演奏グレード・五級以上の認定証を求められることが多い」
「……はい。私の場合、音大を出ていないから、音楽教室で受験しなきゃいけないってことですよね?」

 想乃がカップを両手に包んだまま慧弥の目を見つめると、彼は優しげに目を細めた。「そうなるね」と頷いた。

「ブライダルピアニスト。いいんじゃない? 想乃らしくて」
「……本当ですか?」
「うん。誰かに喜んでもらえる仕事だし、きっと想乃のやりがいに繋がるだろうね」

 言いながら、慧弥が想乃にファイルを渡した。

「これは想乃のために集めた資料だから、持ち帰るといいよ」
「ありがとうございます」
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