Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「え」

 目を丸くして、慧弥が想乃を見つめた。意外だと言わんばかりに口をぽかんと開けている。「そうなんだ?」と重ねて聞いてくる。

「正直、写真を撮られるのは恥ずかしいんですけど。ピアノの演奏をしているところって言ってましたし、弾いているうちに撮られるのなら平気かなって」

 それに……慧弥さんと仲のいい方だし。

「ふーん」と呟き、慧弥が二つのカップをキッチンへ下げた。壁掛け時計に目を移し「もうこんな時間か」と息をつく。

「そろそろ送って行くよ」
「あ、はい」

 ファイルと鞄を持ってソファから立ち上がった瞬間、ふと何かを踏んで足がつんのめる。「え」と思うと同時に、ロングスカートの裾を踏んでいることに気がついた。

「わわっ!」

 バランスを大きく崩し、そのまま前のめりに倒れかけるが——。すんでのところで力強い腕に支えられた。ふわりといい香りが漂い、鼻腔をくすぐった。

 バサッと音がしてファイルと鞄が落ちたと頭で認識する。

 顔を上げると、至近距離で慧弥と目が合った——

 ドキン……! 心臓が飛び跳ねる。慧弥の目が大きく開き、茶色い瞳がこちらを見つめていた。

「ご、ごめんなさい……! 私、つい……」
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