Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 慌てて身を引き、慧弥から距離を取る。赤面した顔を見られるのが恥ずかしくて、思わず俯いた。

「……いや」と慧弥が答えた。

 想乃からサッと目を逸らし、背中を向ける。「送って行くね」と続け、足早に玄関へ歩いていった。

 慧弥の声はいつもより素っ気なく聞こえた。

 てっきり笑われると思っていた。「気をつけなきゃだめだよ」と軽く流されて、いつものように頭を撫でられるものだと——。

 ツキン、と胸が痛んだ。

 もしかしたら……呆れられたのかもしれない。とんだ失態だ。

 助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。

「潤には俺から連絡しておくね?」

 慧弥の声は元の穏やかさを取り戻していた。「はい」と沈んだ声で頷き、想乃は夜の車窓に目を留めた。

< 286 / 480 >

この作品をシェア

pagetop