Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ピアノを弾く自分を撮影したいと言われていたので、てっきり音楽ホールか、ストリートピアノのある場所で行うのだと思っていた。

 潤が、温かみがあり、幻想的な雰囲気を写真に収めたいと考え、一軒のカフェを時間制で貸切にしたらしい。同行した慧弥にそう説明され、なるほどなと思った。

 店の前にはすでに潤の車が停まっていた。

 カフェの扉を開けた瞬間、微かに香るコーヒーの匂いと木の温もりに包まれた。午後の光が大きな窓から差し込み、店内のアンティーク調の家具に優しく反射していた。

 想乃は慧弥に手を引かれ、店の奥へと進んだ。潤はグランドピアノの傍に立ち、撮影機材の準備をしていた。

 潤の足元には大きなレフ板が立てかけられており、想乃は小さく息をのんだ。本格的だと実感せざるを得なかった。

 互いに挨拶を交わして、いざ撮影がスタートした。

 想乃がそっと鍵盤に手を置き、潤はその姿を見つめ、カメラを構えた。

 指先が鍵盤に触れるたび、静かなカフェにゆっくりと旋律が広がっていく。午後の陽射しが大きな窓から差し込み、光を帯びた埃の粒がゆらゆらと舞っていた。

 カメラのシャッター音が響く。視線を上げると、少し離れた場所で潤がファインダー越しにじっとこちらを見つめていた。その奥、店の隅では慧弥が静かに想乃を見守っている。
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