Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 潤がシャッターボタンを押す瞬間、ふと慧弥の瞳とぶつかった。彼は何も言わず、けれど確かに、自分の奏でる音を聴いている。

 ピアノの音、光、そして慧弥のまなざし。それらすべてが溶け合い、一枚の写真に閉じ込められていく。

 写真を撮られるのは、もっと緊張するものだと思っていた。

「好きに演奏していてくれたら、勝手に撮るから」——潤にそう言われ、その通りにしたら、あっという間に終わった。

 撮影後、ノートパソコンに映る写真のデータを慧弥と確認し、その写り具合に満足した。

 まるで自分ではないみたいだった。


 想乃は日記の文章を投稿し、ふっと小さく息をついた。

 *

 金曜日の夜、想乃は慧弥の部屋を訪れていた。広いリビングで食事をしながら、慧弥と会話するのがもはや習慣化しつつある。

 大きな窓の向こうには、キラキラと揺れる夜景が広がっている。デリバリーの料理を食べ終え、想乃は慧弥とソファでくつろぐ。食後のコーヒーを口にした。

「そういえば、ピアノのレッスンは来週からだったよね?」

 ふと思い出したように慧弥が言う。想乃は頷き、「初日は月曜の十時からです」と答えた。

 試験対策を調べたところ、やはりプロ講師から正しいレッスンを受けて臨むのがベストだと書いてあった。
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