Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「慧弥さんとのデートもほどほどに、ですよね?」
「そこはむしろ濃密に」
「なんでそうなるんですか」

 想乃は斜向かいに座る慧弥を見て、くすくすと肩を揺らした。

「想乃といる時間だけが癒やしだからさ」

 慧弥はおどけて肩をすくめた。それからグラスにノンアルコール飲料を注いだ。

 本気かどうか測りかねる台詞だが、このところ彼が仕事で疲れているのは確かだ。

 今週は帰宅が遅い日が続いていたようで、今夜しか会えていない。

「あ、そうそう」と慧弥が呟き、想乃にグラスを渡した。

「来月の半ば。世間ではバレンタインというイベントがあるよね?」
「ありますけど?」

 想乃は素知らぬ顔でグラスに口をつけた。炭酸の泡が心地よく、シュワシュワと喉を刺激する。

 毎年、家族にしか渡していないけれど、今年は片思い真っ最中の慧弥がいる。

 本来なら、慧弥にチョコレートを渡したいけれど、本命だとは言えない。義理として渡すしかないのかもしれないと、ひそかに頭を悩ませていた。

「その日は土曜だし。デートプランは俺が決めてもいい?」

「え」と呟き、想乃は慧弥を見つめ直した。声が若干うわずりながらも「もちろんです」と答える。

 というより、そこまで忠実に恋人らしいイベントをこなす必要があるのだろうか。

 言うまでもなく、慧弥と恋人気分でデートできるのは嬉しい。

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