Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 嬉しいけれど、そもそも互いに好きにならないのが条件だ。それなのに恋人同士を演じている。

 執拗に誰かが見張っているわけでもないのに……続けている。

 最近では、それがとんだ茶番に思えてきた。まるで大人のままごとだ。

 慧弥の考えていることは、相変わらず理解できない。

 慧弥は満足そうに笑い、グラスを傾けた。

 突然、ローテーブルに置きっぱなしの黒いスマホが鳴った。慧弥のものだ。

 想乃は反射的に目を上げた。慧弥の表情が、画面を見た瞬間に強張る。彼は慌ててスマホを掴み、音を消して、再びテーブルへ置いた。

 ……電話だったんだ。

 そう察したものの、彼は出ようとはしなかった。

「出なくてよかったんですか?」

 気になって尋ねると、慧弥は「うん」と頷き、遠くをじっと見つめる。

 仕事の電話……なのかもしれない。

 そう思って聞いてみたが、彼は沈んだ表情のまま、「うん」と生返事をするだけだった。その横顔が、それ以上の追及を拒んでいるように見えた。

 沈黙のさなか、慧弥が不意に口を開く。

「前に渡したここの合鍵だけど。今日もちゃんと持ち歩いてるよね?」

 不安を滲ませる瞳に、想乃は息を呑む。

「はい、ここに、ちゃんと……」

 足元に置いた鞄から、革のカードホルダーを取り出し、彼に見せる。

 慧弥はホッと息をつき、腕時計に目を落とした。

「そろそろ送るよ」。そう言って立ち上がった。
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