Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
『そうなんだ。春物の新作かな……いいのあった?』
「はい」

「黎奈さんにワンピースを」と口にしたところで、目の前の黎奈が無言で手を差し出した。「慧弥でしょ、ちょっと代わって?」と言われる。

「あの、慧弥さん。ちょっと黎奈さんに代わります」
『え』

 想乃はスマホを黎奈に渡した。黎奈は画面をタップし、ハンズフリーに切り替える。

「さっき想乃ちゃんから聞いたけど、あなたたち一体どうなってるの?」
『……どういう意味?』

 さっきまでの柔和なものとは打って変わり、慧弥の口調が急に刺々しくなった。

「入籍の日取りも挙式の日程も決めてないんでしょ? あなた何考えてるの?」

 電話の向こうで、慧弥のため息が聞こえた。その一息だけで、うんざりしているのが伝わってくる。

『俺たちには俺たちのペースがあるから、これ以上口出ししないでくれる?』
「ペースって。あなたはそれでいいかもしれないけど。想乃ちゃんが困るでしょ?」
『なにが?』
「……馬鹿ね。妊娠したらどうするのよ、結婚式は一生に一度なのよ?」

 黎奈の「妊娠」という言葉に、想乃は内心でドキッとする。

 慧弥は一瞬黙り込んだあと、『そんなヘマはしないよ』と冷たく言い放った。

『もういいだろ? 早く想乃に代われよ。次の予定が詰まってる』
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