Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「そうはいかないわ。慧弥がそんなだから、美海が変に勘ぐるのよ」
『……はぁ? 美海?』

 美海の表情が一瞬で変わる。唇を引き結び、視線をそらした。

『美海もそこにいるのか?』
「そうよ。美海が、あなたの婚約は嘘なんじゃないかって言ってるの」
「ちょっと、黎奈ちゃん!」

 美海が焦ったように声を上げると、慧弥はしばし沈黙し、『なるほどね』と低く呟いた。

『想乃?』

 先ほどまでの冷たさが消え、慧弥の声がまた穏やかになった。

『ごめんね、疑われて嫌な思いをしたよね?』
「……え、と。あの」
『ここのところ、仕事が立て込んでて。来月末にはちゃんとするから、また二人で決めよう』

 来月末……? 想乃は思わずきょとんとする。まさか本当に予定を立てて、式場を押さえるつもりじゃ……?

 嘘なのに、と狼狽える気持ちがあった。

「はい」と言ったものの、まだ気持ちは追いついていない。

『もうクライアント先に着くから、またあとで連絡するね。……愛してるよ』
「……っあ」

 言葉が詰まった。一瞬、なにを言われたのかわからなかった。頬がみるみるうちに赤くなる。

『じゃあ』と言って電話はプツリと切れた。

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