Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 バッグの中身を拾い集め、女性に手渡して頭を下げると、彼女と正面から目が合った。身なりの美しい、エレガントなご婦人だった。

「あら……? あなた、確か……?」

 女性は眉をひそめ、かすかに首を傾げる。

「あの……」

 想乃は戸惑い、頼りなく眉を下げた。こんな綺麗な人とどこかで会っただろうか? 正直、記憶にない。

 やがて何かを思い出したように、女性の表情がぱっと華やいだ。

「そうだわ! あなたどこかで見かけたと思ったら、あの人のパーティーに参加していたでしょう?」
「……え?」
「慧弥くんのご婚約者でしょう?」

 そう言ってご婦人はにっこりと微笑んだ。

 *

「お待たせ致しました」

 想乃の目の前にコーヒーのカップがそっと置かれる。「ごゆっくりどうぞ」と声をかけるウェイターに、ご婦人は「いつもありがとうね」と気品に満ちた笑みを浮かべた。

 想乃はそのやり取りを見て、ご婦人がこの店の常連なのだと察する。

「急にごめんなさいね。パーティーではお話できなかったから」
「いえ、こちらこそ。ご挨拶もできずに失礼しました」

 女性はふっと微笑み、カップの持ち手に指をかけてコーヒーをひと口飲んだ。

 へぇ。ブラックで飲むんだ。
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